夏色モノクローム
 駅への道をひたすら駆けて。電車に乗って、帰宅する。

 京浜東北線に乗って埼玉方面。(わらび)駅で降りて徒歩十三分。分譲住宅が建ち並ぶ一画に、里央の家はある。
 親は共働き。門限なんかは全然なくて、昔からかなり自由にさせてもらっている。
 この時間は家に誰もいなくて、二階への階段をとすとすと音を立てて駆け上り、自分の部屋に閉じこもる。
 机の上に鞄と一眼レフを置いて。電気、つける元気もなくて。明るいのがしんどくて。カーテンを閉じて、薄暗い部屋の中、スマホ片手にベッドに横たわる。

 ユズリハ。
 ユズリハグループ。

 今まで全然興味がなかったけれど、国内の家具メーカーの最大手だ。
 この部屋のベッドも、机もそう。お手頃価格で、シンプルで綺麗なデザインのものが手に入るし、それとは別にちょっといいお値段がする高級ラインと、海外有名メーカーと提携した輸入家具も取り扱う合計三本のラインで、幅広い客層を有する。
 創設者である会長の姓は杠葉。社長も同じ杠葉で、どうやら杠葉会長の長男で。

(ユズリハ、今の社長は……二五年前、若くして、奥さんを亡くして。数年後再婚)

 前の奥さんとの間には、子供がひとり。性別も、名前もわからない。
< 34 / 52 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop