夏色モノクローム
 あの古びた一軒家。
 大きい家ではあるけれど、あの家にただひとりで住んでいる理由はなんだ?
 家族と折り合いが悪いから?
 でも、ひとり暮らしを選ぶのなら、どうして、あの家にした?

 家政婦を雇っている形跡もない。維持をするのも大変だろう。外だけ妙に古びていて、一歩中に入れば綺麗な、ちぐはぐな。奇妙な家。志弦の性質そのものの、家。

 考えれば考えるほど、わからなくなる。

(あたま……いたい……)

 考えすぎ?
 ううん、この痛みは、多分天気痛。
 SNSのニュースで天気予報流れてたっけ。
 大きな台風が発生して、もしかしたら関東に思いっ切りぶつかるかもと。

(なんだか、疲れた)

 知れば知るほど、志弦が遠い存在のように感じる。
 いつもだるだるな様子の、ちょっと変わった年上のひとで。
 でも、ゆるっとした彼に親近感を持って。掴みきれない不思議さに、心惹かれて。近づきたいと思っていたのに。

(ユズリハ、会長の……孫)

 一般人とはかけ離れすぎている。
 里央がどれだけ背伸びしても、届かない場所に彼はいて。
 そのうえ志弦は、何かを諦めるように線を引いた。

 年相応のいい男を捕まえて、よかったなと。
 保護者とまではいかなくとも、馴染みのお兄ちゃんみたいな目線で。里央の背中を押した。

 里央が自ら掴みに行かなければ、志弦はいとも簡単に、里央の人生から姿を消す。
 彼からはけっして近寄ってはくれなくて。だから、里央から手を伸ばさなければいけないのに。

 彼の家柄がわかったからって、手を伸ばすのが億劫になる自分が嫌だ。
 彼は、里央との間に線を引いた。
 でも、里央だって同じだ。
 年齢だとか、そういうことは全然気にならなかったのに。
 家柄が分かった瞬間、里央もまた、彼との間に線を引いた。
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