夏色モノクローム
「った!」
「――おい!?」

 顎に重い衝撃が走り、のたうち回りそうなほどの痛みに喘ぐ。
 あまりの痛みに、地面に蹲ったまましばらく動けないでいると、ぱたぱたと足音が聞こえた。

「おい。あんた、大丈夫か……!?」

 志弦はわざわざ引き返してきてくれたらしい。
 すぐ近くでしゃがみ込んで、あー、と迷ったような呻き声をあげたあと、改めて声をかけてくれた。

「自分よりカメラが大事かよ。ったく、おい、怪我してねえよ……って、してるか。そうだよな」

 いつも塩対応なのに、今ばかりは心配してくれたことが嬉しい。なんとか顔を上げた瞬間、彼がゲンナリしたような顔をしてみせた。

「……女の子がなんてとこ打ちつけてんだ」

 おそらく、顎のことだろう。
 ころんだ本人だからわかる。それなりにひどい怪我している。
 ついでに言うと、顎だけじゃなくて、肘も広範囲にわたり擦りむいている気がする。

「……さすがに放っておけないか。おい、立ち上がれるか? 手当くらいは、してや――うおっ!? そんな嬉しそうな顔するなよ!?」

 そう言われても、するに決まっている。
 動けないほどに痛むけれど。お気に入りのシアーブルゾンも駄目になっちゃってる気がするけれど。

(ころんでよかった……!)

 グッジョブ、自分! と思ったのは当然、彼には秘密である。
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