夏色モノクローム
  ◆


「あー……」

 ひどいことになっている。
 洗面台の鏡をじっくり見ながら、里央はため息をつく。
 顎の下と、肘から腕の後ろ側に痛々しい傷が広がっている。もちろん、お気に入りのシアーブルゾンは再起不能状態で大きな穴があいてしまっていた。
 でも、仕方がない。あのシアーブルゾンと里央の肌は犠牲になったのだ。志弦との貴重な時間のために。

(それにしても……志弦さん、ほんとに何者……?)

 彼のことをもっと知りたいと思っていたのは事実だ。けれど、彼の家に入れてもらってから、気持ちがなかなか追いついてこない。
 いつもだるだるとしたミステリアスなおじさんという認識をしていたけれど、改めなければいけないようだ。

(家、すご)

 少し大きいだけの古い家ではなかった。家の外装はそのままに、中だけをフルリフォームした様子の、小洒落た家だ。
 インテリアがどれも、かなりこだわりを持って設置されているらしくて、昔からある古い家具と、新しく置かれたモダンな家具が見事に融合していた。

(志弦さんの家だ)

 外装と内装のちぐはぐさが。
 洗面所で傷口を洗いながら、里央はじわじわと実感してしまう。
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