見た目九話~冴えない遠藤さんに夢中です~【改訂版】
 翌日、向かいの席に腰を下ろした遠藤は、眼鏡を外してテーブルに置いた。
 愛美はそれを見てにっこり笑う。

「昨日ネットでこれ買ったんだ」

 遠藤のスマホの画面には、トレンドをおさえたきれいめカジュアルファッションを着こなす、お洒落な男性人気モデルが写っていた。

「その服、どう思う?」

「へえー、いいと思いますよ。遠藤さんお洒落に目覚めましたか?」

「あ、いや……ちょっとずつ勉強しようかと思ってね。曽根崎さん、教えてくれる?」

「ええ、私でよければいつでも……って言っても、メンズファッションはあんまりわからないですけど、きれいめカジュアルは好きですね」

「きれいめカジュアルって?」

 遠藤が首を傾げる。

「遠藤さんが買ったって言う、そんなスタイルのことですよ」

「そっか。じゃあ良かった」

 遠藤は安堵したような表情で嬉しそうに言った。

「そのモデルさんの髪型もいいですね」

 愛美が何気無く言った言葉を聞いていたようだ。


 翌日、遠藤の髪型は激変していた。
 遠藤がいつものように愛美の向かいに座って眼鏡を外すと、近くに座っていた女子社員が気付いた。

「えぇーっ!? 遠藤さんですか? ほんとにー? カッコイイー!」

 つい最近、遠藤を見てクスクス笑ってたくせに――と愛美は心の中で呟いた。
 遠藤はまるで聞こえていないかのようにそれを受け流すと、不安げに愛美の顔を覗き込んだ。

「変……じゃないかな?」

「すごく素敵ですよ。似合ってます」

 一目見て気付いた。その髪型が、昨日遠藤のスマホに写っていたモデルと同じだということに。
 愛美が満面の笑みを向けると、遠藤は照れながらも嬉しそうな表情を見せた。髪にはヘアワックスが塗られているのがわかり、遠藤の頑張りが窺えた。


 翌日から女子社員の態度が一変した。

「遠藤さん、今日も素敵ですね~」

 その声が耳に入り振り返ると、トレーを持ったまま女子社員から足止めを食っている遠藤の姿があった。
 愛美の視線に気付いた遠藤は愛美に向かって手を振ると、それらを躱してやってきた。

「あ、俺も今日ハンバーグなんだ」

 三日月の目をして遠藤が言い、愛美も笑顔を見せる。

「あ、そうだ、曽根崎さん」

「博子ちゃんと同じ呼び方でいいですよ」

 咄嗟に言っていた。

「え? あ……うん。ま、愛美ちゃん?」

「はい」

「これ、食べて」

 遠藤は自分のトレーに乗っていたプリンを愛美のトレーに乗せかえた。

「わあー、嬉しい!!」

 何となくモヤモヤしていた気持ちが吹き飛んだ。
 不意に遠藤が視線を上げたので振り返ると、ニヤニヤ顔の博子が立っていた。

「私にはないんですか? ……プリン」

「あ……ご、ごめん……」

 遠藤のまごつく様子が、愛美の心を擽った。

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