センセイとわたしのただならぬ関係
 そのまま、海岸まで走った。
 立ち入り禁止の柵を乗り越え、埠頭の突端まで行き、暗い海を眺めた。

 ここから海に飛び込んでしまおうか。
 でも、ここじゃ、溺れもせずに、すぐに引き上げられておしまいだろう。

 背後に人の気配を感じて振り返る。
 すると田坂さんが追いかけてきた。

「小春さん」
 彼の呼びかけを無視して、わたしは対岸を眺めた。

 無数の光が煌めく対岸の夜景は息を飲むほど美しいけれど、わたしの目には空々しく映る。

 表面(おもてむき)は美しいけれど、一皮むけば、得体の知れないものが蠢いている。

まるで今、わたしの後ろにいる人のように。

田坂さんがふっと笑う声が聞こえた。
「海に飛び込みたくなるほど、私との結婚が嫌か」
「あなただって嫌でしょう。わたしみたいなガキが相手じゃ」
「いや、光栄だよ。まあ、それ以前にあの人がきみの勝手を許すわけがないと思うけどね」

 父といるときとは違い、田坂さんはぞんざいな話し方になっている。
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