センセイとわたしのただならぬ関係
「じゃあ、高校を卒業したら家を出ます」
「路頭に迷うつもりなのか? それはあまり利口な考えじゃないと思うが」
「働いて自活します」

 彼は完全につくろうことをやめて、とうとう大きな声で笑いだした。
「ああ、失礼。やっぱり世間知らずのお嬢さんだな。甘やかされて育ってきた女の子がすんなり生きていけるほど、甘くないよ。世間は」

 わたしも、つくろうことをやめて、不快をあらわにした。
「そんなの、やってみなけりゃわかんないじゃない」

「いやいや、だだをこねずに私との結婚を了承しなさい。それがきみの幸せへの一番の近道だ」

 きみの幸せ?
 何言ってんだか。
 そうじゃなくて、ただ単に自分の都合でしょ?
 ますます腹が立つ。

「とにかく、わたしと結婚しようと思っても無駄ですから」

 田坂さんは首をすくめ、それ以上、何も言わなかった。
 どうせわたしが父に逆らうことはできない。
 そう高を括っているのが見え見えだった。

 わたしは踵を返した。
「どこに行くんですか」
 田坂さんはわたしの背後から声をかけてきたけれど、わたしは無視して歩きつづけた。

 彼は追いかけてはこなかった。
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