センセイとわたしのただならぬ関係
 この人、古文の津村先生に似てる。
 声もそっくり。

 ただ、雰囲気はまるで違う。
 眼鏡かけてないし。
 別人だよね。
 高校の国語教師がこんなところでウエイターの仕事してるわけ……ない。
 
「つべこべ言わず、早く持ってきてくれないか」
 田坂さんが居丈高に言い放つ。
 
 他の席の人がその声に驚いてこっちを見ている。

 もう、恥ずかしいなぁ。
 わたしは慌てて取りなした。

「パパ、田坂さん。わたし、別にワインなんて飲みたくないから」

「大きな声を出したら、他のお客さんの迷惑になりますから」と母も遠慮がちに言った。

「おまえたちは黙ってろ」
 父は苦虫を噛み潰したような顔で、そのウエイターに文句を言い始めた。

「こういうときは、わかっていても融通を利かすものだぞ。まったく客あしらいのまずい店だ。評判倒れだな」

 けれど、そんな父の嫌味にはこれっぽっちも動じずに、そのウエイターは「申し訳ありません。規則ですので」と言うと、深々と一礼をした。
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