まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「……い、ゆーい」

 パソコンはいつの間にか真っ暗で画面に映る自分と目が合った。ひらひらと手がちらついたのに気づきハッとすると、隣にある小さな顔が頬杖をついてこちらを見ていた。

「もうぼーっとしちゃって。さては式のこと考えてたな?」

 緩いウェーブのかかった茶色い髪を癖でくるくると指に巻きつけ、からかうようにクスッと笑ってくる彼女は同期のレイナだ。

「ち、違うよ」

 急に恥ずかしくなり慌ててパソコンの画面をつける私は、向かいの席にいる先輩たちの目を気にしながら体を縮こまらせた。

「別に遠慮することないのに」

 真っ白な細い二の腕を伸ばし私の席からカレンダーを取っていく彼女は九月の第三日曜日に書かれた赤い丸印を見つめて、おもむろに【HappyWedding】と書き込む。

「楽しみだね」
「うん」

 レイナの笑顔に照れながらカレンダーを受け取ると可愛い文字を見て口元が緩む。

 今年で二十六歳になる私は三ヶ月後に結婚式を控えていた。

 ここは都内にある三十階建てのオフィスビル。その二十五階で働く私は関東を中心に展開している大手百貨店『相屋(そうや)』の本社で経理の仕事をして五年目になる。

「いいなあ、幸せいっぱいって感じで羨ましい」

 口を尖らせるレイナはパソコンに向かいながら凹凸のある綺麗な横顔でため息をつく。

 相変わらず同性から見てもうっとり見惚れてしまう顔立ち。私は目の上で切り揃えられた厚いぱっつん前髪を触りながら、思わず自分の地味で平凡な容姿と比較してしまう。

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