まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「……い、おい」
「わっ」

 怖い顔をした一哉さんが突然目の前に現れ、私はソファから飛び跳ねる勢いで立ち上がった。

「どうして帰らなかったんだ」

 いつの間にか外は真っ暗で腕時計を見たら七時を過ぎていた。どうやら彼を待っていようとするうちにいつの間にか眠ってしまったようだ。

「すみません。つい寝てしまって」

 その瞬間、またお腹がぎゅるぎゅると鳴った。誰もいない静かなフロアではこれでもかというほどの大きな音となり、顔が一気に熱を持った。

「行くぞ」

 ここで少し笑ってくれれば場が和むというものを、聞こえないフリをするなんて余計に恥ずかしくなってしまう。

 私が寝ていたせいで帰るに帰れなかったのだろうけど、それでも相変わらずの仏頂面はどうにかしてほしかった。

「じゃあ私はこれで」

 一哉さんは鍵を閉めて最後のチェックをしているところ。私は口を尖らせ頭を下げるとため息交じりにさっさと帰ろうとした。

「どこに行くんだ」

 すると彼の声に引き留められた。

 振り返れば式場の前に停まっていた黒いベンツに手をかけてこちらを見ていた。

「お腹、減ってるんじゃないのか」

 同時に助手席の扉が開けられ、私はなぜか彼と夕食に行く流れになってしまった。


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