まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「大丈夫か?」

 ふた月後、神前式を終え晴れて夫婦となった私たちは由緒正しき月島旅館の一室で披露宴を執り行っている。

 一哉さんとの契約結婚が決まってからというもの目まぐるしく日々は過ぎていき、気づけばもうこんなところに座っている。

 畳の大広間に作られた席にはずらりと列席者が並んでいて、緊張のあまり隣に座る一哉さんの顔すらまともに見られずにいた。その顔触れは政界の大物や大企業の社長たちばかりでごくりと唾をのむ。

 無意識に着ていた色打掛を膝の上でぎゅっと掴んでいて、あしらわれている羽ばたく鶴も顔を歪ませている。


「身構える必要はない。どうせ一年先は関わりのない人間たちだと、それくらいの気持ちでいればいい」
「そんな簡単に……」

 綺麗に彩られた美味しそうな料理もまるで喉を通らない。冷静な一哉さんの声に眉尻を下げちらりと目を向けてみたら、真っすぐ正面を見据えている凛とした横顔が見え不覚にもドキッとさせられる。

「ん?」
「あ、いえ」

 慌てて顔を伏せながら胸に手を当てる。

 これは一年間妻を演じるだけの契約結婚。今日も隣に座っていればそれでいいと言われたものの、想像以上に大きな式を目の当たりにし気後れしている。平然と座る一哉さんを見て改めて思う。

 私はとんでもないところへ足を踏み入れてしまったようだ。

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