まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「結さん」

 そこへ近づいてきた気配を感じたかと思えば、落ち着いた女性の声が聞こえびくっと背筋が伸びる。顔を上げれば黒留袖の着物が見え緩みかけていた緊張の糸が一気に張り直された。

「お義母さ……」
「認めたつもりはありません」

 目の前に座った途端、鋭い視線を向けられ声が震える。後毛ひとつなく整えられた髪のせいか少し目元が引きつられていて、心臓の鼓動が一気に速まった。

 一哉さんの母親で月島旅館の女将である彼女とはつい一週間前に初対面を果たしたばかりだ。それにまだ一度も言葉を交わしたこともなければ、名前だって呼ばれたのは初めてで内心動揺を抑えきれずにいる。


『一哉さん、これはどういうことですか』

 あの日動揺していたお義母さんの言葉を思い出す。

 契約結婚の話がまとまったあと私の両親の承諾を得てからすぐに月島家を訪れたが、玄関先で迎えてくれたお義母さんの第一声は歓迎ムードとは程遠かった。

 何も知らずについて行ったが正直雰囲気は最悪で、空気は終始ぴりついているし親子の会話はどこかよそよそしかった。

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