まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「もうすぐだけど……終わりそう?」

 不意に巧さんから視線を向けられ、分厚いファイルを持ったままたじろいだ。

「あ、えっと」
「ああこれは秋庭(あきば)さんに引き継いでね」

 口ごもっていたら部長は慌てて私からファイルを取り上げて隣にいるレイナのデスクにどんと重い音を立てる。すかさず「え」という低い声が聞こえてきた。

「じゃあロビーで待ってるから。ではお邪魔しました」

 彼の言葉に黙って頷くと、オフィスを出ていく彼のあとを追う部長がわざわざ外まで見送りにいく姿が見えた。

「まったく調子いいんだから」

 不機嫌そうな顔でファイルをめくり出すレイナになんだか申し訳なくなる。

「ごめん、私の仕事なのに……」
「ああ、いいのいいの」

 彼の言う通り、最近は結婚式の打ち合わせでよく平日に休みをとっている。その分の私の仕事はすべて彼女にばかりいってしまって、いつもいつも頭が上がらない。

「まあその代わり」
「ん?」
「結婚したらお金持ちのイケメン紹介してもらうから。今のうちに恩売っとくわ」

 申し訳なさを感じる私に気づいたのか、冗談っぽく言うレイナの言葉に救われた。彼女の優しさに私は笑顔で頷いた。

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