まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「若奥様大丈夫ですか」

 顔が真っ青になり何も言葉が出なかった。彩乃さんに案内された離れの裏手を歩き、小川の近くのベンチに腰を落とす。

「あのう来週には旅館の方へ出てくるように、と奥様から申し付かっているのですが」

 月島の嫁になるという重圧を初めて痛感する。安易に受け入れた結婚話にこんな裏があったなんて聞いてない。一哉さんがどういうつもりなのかもわからず頭が混乱していた。

「ずっと気になってたんですけど、一哉さんってどうしてお義母様のことを若葉さんって呼ぶんでしょう」

 呆然とする中、ずっと引っかかっていた違和感を思い出したように口にする。自分でもどうして急にその話が出てきたかも分からず、一点を見つめたままぼうっとしていた。

「もしかしてそれもご存じないですか」
「え」
「一哉様は若葉様の本当の御子ではございません」

 衝撃は次から次へと降ってくる。

「一哉様は亡くなられた旦那様と当時女中だった女性との間にできた御子だと聞いております。若葉様はそのあとで月島家に迎えられましたがなかなか御子に恵まれず、ようやく授かったのが樹様でございました」

 一度にこれでもかという情報を詰め込まれた結果、私の頭はショート寸前だ。


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