まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「彩乃さん詳しいんですね」 
「はい。私は母の代から月島家でお世話になっておりますので、色々と内情は耳に入ってくるんです」

 にっこり微笑む屈託のない笑顔に私は苦笑いで返す。


 それから彩乃さんには先に帰ってもらい、自然の音に囲まれながらふうっとため息をついた。ひとりになって頭を整理したくなった。

 結局もやもやした気持ちのまま離れに戻った私は夕食を済ませお風呂に入った。出てきても、しんとしている室内を見つめ敷かれた布団に飛び込んで大きくため息をつく。

「こんなに遅くまで仕事してるんだ」

 携帯を見つめてぼやきながら時計がちょうど十一時に変わったのを確認した。

 今朝も早くに家を出たのにまだ一哉さんは帰ってきていない。この前交換したばかりLINEにも特にメッセージは届いていなくて、枕に頬を押しつけながら小さく息を吐く。

 帰ってきたら聞きたいことが山ほどあった。それなのにこれでは話をするどころかすれ違いの生活になりそうだ。

 そのとき、戸が開く音がして思わず飛び起きた。振り向くと鞄を持ったままこちらを覗いている彼と目が合い固まってしまう。

「ごめん、起こした?」

 私は慌てて首を横に振った。

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