まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「あ、えっと……」
「若女将にさせるつもりはないと言ってあったはずだけどな」
目を泳がせ自分自身に戸惑っていたら、パソコンが閉じられた音とともに低い声がする。
「なにを聞いたか知らないが、俺は樹が成人して会社を継げるようになるまでの……いわば繋ぎの社長。女将も承知の上だ」
「え」
「だから若女将にはいずれ樹の結婚する相手がなるだろう。それなら君までわざわざ〝繋ぎの若女将〟になんてなる必要はない」
平然と言う彼の目がいつもとどこか違って、目の奥が寂しそうに見えた。
「それに一年たったら君はもうここからいなくなるだろう」
居心地悪そうに立ち上がる一哉さんに私は何も声をかけることができなかった。目の前ではただただ湯気を立てたお茶が虚しく取り残されていて心が重たく苦しくなった。
「早く渡しておくべきだったな」
「これ」
突然目の前に置かれたのは以前交わした私のサインが入った契約書と小さな鍵だった。
「心配しなくても式典が終われば解放してやる。これはそこの金庫のカギだ。君に預けておくよ」
心配しなくても――。
その言葉になぜだか引っ掛かりながら私は小さく頷いた。お茶を一口だけ飲んで一哉さんは部屋を立ち去る。ひとりになってぼーっと契約書を見つめていたら、私と彼を繋げているのはこのたった一枚の紙切れだけなのだと改めて線が引かれたように感じた。
「若女将にさせるつもりはないと言ってあったはずだけどな」
目を泳がせ自分自身に戸惑っていたら、パソコンが閉じられた音とともに低い声がする。
「なにを聞いたか知らないが、俺は樹が成人して会社を継げるようになるまでの……いわば繋ぎの社長。女将も承知の上だ」
「え」
「だから若女将にはいずれ樹の結婚する相手がなるだろう。それなら君までわざわざ〝繋ぎの若女将〟になんてなる必要はない」
平然と言う彼の目がいつもとどこか違って、目の奥が寂しそうに見えた。
「それに一年たったら君はもうここからいなくなるだろう」
居心地悪そうに立ち上がる一哉さんに私は何も声をかけることができなかった。目の前ではただただ湯気を立てたお茶が虚しく取り残されていて心が重たく苦しくなった。
「早く渡しておくべきだったな」
「これ」
突然目の前に置かれたのは以前交わした私のサインが入った契約書と小さな鍵だった。
「心配しなくても式典が終われば解放してやる。これはそこの金庫のカギだ。君に預けておくよ」
心配しなくても――。
その言葉になぜだか引っ掛かりながら私は小さく頷いた。お茶を一口だけ飲んで一哉さんは部屋を立ち去る。ひとりになってぼーっと契約書を見つめていたら、私と彼を繋げているのはこのたった一枚の紙切れだけなのだと改めて線が引かれたように感じた。