まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
 それから一週間が経った。

 相変わらず一哉さんとはすれ違いの日々が続いていて、ほとんど会話を交わすことなく時間だけが過ぎていった。

 『若葉さんにはもう一度言っておくから旅館には行かなくていい』

 一哉さんから念を押してそう言われたもののなんだかじっとしていられなくて、気づけば月島旅館の裏口でうろうろしている自分がいた。

 たしかに若女将になんてなりたいわけじゃないしなれる自信もないけれど、これから一年もの間ここで暮らすのだから月島家の人々とは良好な関係を築きたい。

 それに私は仮にも月島の嫁になったのだから、家業を手伝うのは当たり前の仕事だろうしむしろ手伝わない方が不自然になるのではという考えに至った。

 私の使命は月島の嫁として疑われないように過ごすこと。それなら私にだってできることはあるはずだとここまで来てしまいこっそり中を覗いている。

「でも、すごい忙しそう」

 しかし従業員が忙しなく行き交っているのを目の当たりにして、なにかできると意気込んできたもののただ足手まといになるだけかもしれないと気おくれしていた。

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