まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
 フロントにも行かずロビーのソファで待つ私はいつ帰ってくるかも分からない彼の姿を探して自動ドアが開くたびに顔を上げた。

 ちょうど一時間ほど経った頃、現れた一哉さんを見て立ち上がった。しかし反射的に柱の影に隠れていた。

 彼の隣には綺麗な着物姿の女性がいたから――。

 ひと目見ただけでお似合いだと分かるふたりの間には、私なんて到底割って入れない空気感が漂っている。彼が女性と一緒にいるところを初めて見た。

 フロントに向かう途中、他のカップルとぶつかりそうになった彼女を庇うように腕を引き寄せて密着するふたりを目撃する。どうにもならないこの嫌な感情に顔を歪め、急いでホテルを出た。

 サプライズでなんて来るものじゃない。

 ちゃんと彼のそばにはお世話してくれる人がいて私生活も疎かになんてなってない。所詮契約妻の立場で女性が私だけだなんて思い上がりだった。

「結」

 そのとき自動ドアが開く音共に一哉さんの声がした。

「光井からのメール今見たよ。来てるなら連絡くらい」
「すみません、迷惑でしたよね」

 嫉妬なんて見苦しい。

 彼を目の前にしても上手く目を見られず、せっかく来たのにそんな可愛くない言葉を発してしまう。

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