まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
「なんだよ、待たせたのを怒ってるのか? とにかく部屋に」
「大丈夫です。お邪魔だったみたいなので私は別のホテルに泊まります」
言いたかったのはこんなことじゃない。会いたくて会いたくて、だからこうしてきたはずなのに素直になれず出てくるのは嫌味な言葉ばかりだ。
どんな顔をしているのかも見えずキャリーケースをひく手に力がこもった。
「一哉?」
そのとき透き通るような柔らかい声が私たちの間に割って入る。ズキっと心が痛むのを感じて顔を上げたら、彼の後ろにおっとりとした美女がこちらを見て立っていた。
「かんにん、お取込み中やったかしら」
「いや。……ああ紹介するよ、妻の結」
大和撫子とはこういう人のことを言うのだろう。
長い前髪垂らし漆黒の髪を後ろでひとつにまとめる。紫の着物がよく似合いはんなり京都弁の彼女は上品にお辞儀すると色っぽい目元のほくろを見せた。
ちんちくりんで色気も何もない私はぺこっと頭を下げながら負けたと思った。
「彼女は緒方(おがた)栞里」
紹介された途端、一気に記憶が蘇り言葉を失った。
『栞里さん』と言うお義母さんの声が頭の奥の方で反響する。たしかその名前は一哉さんと結婚するはずだった婚約者の名前だ。
「はじめまして。代々、朝霧(あさぎり)ゆう和菓子屋を営んどります」
「今度うちでオープンする式場とのコラボを計画していて、今日もこれから打ち合わせなんだ」
「大丈夫です。お邪魔だったみたいなので私は別のホテルに泊まります」
言いたかったのはこんなことじゃない。会いたくて会いたくて、だからこうしてきたはずなのに素直になれず出てくるのは嫌味な言葉ばかりだ。
どんな顔をしているのかも見えずキャリーケースをひく手に力がこもった。
「一哉?」
そのとき透き通るような柔らかい声が私たちの間に割って入る。ズキっと心が痛むのを感じて顔を上げたら、彼の後ろにおっとりとした美女がこちらを見て立っていた。
「かんにん、お取込み中やったかしら」
「いや。……ああ紹介するよ、妻の結」
大和撫子とはこういう人のことを言うのだろう。
長い前髪垂らし漆黒の髪を後ろでひとつにまとめる。紫の着物がよく似合いはんなり京都弁の彼女は上品にお辞儀すると色っぽい目元のほくろを見せた。
ちんちくりんで色気も何もない私はぺこっと頭を下げながら負けたと思った。
「彼女は緒方(おがた)栞里」
紹介された途端、一気に記憶が蘇り言葉を失った。
『栞里さん』と言うお義母さんの声が頭の奥の方で反響する。たしかその名前は一哉さんと結婚するはずだった婚約者の名前だ。
「はじめまして。代々、朝霧(あさぎり)ゆう和菓子屋を営んどります」
「今度うちでオープンする式場とのコラボを計画していて、今日もこれから打ち合わせなんだ」