まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました
 この人があの〝栞里さん〟か。そう思ったら混乱のあまりふたりが話す言葉がほとんど耳に入ってこなかった。

「結さん」
「は、はい」
「うち、一哉とは子供の頃からの幼馴染みなんどす。昔から何考えとるのか分からん人やさかい大変やろう。かんにんえ」

 なんとなくマウントを取られた気がする。親し気に〝一哉〟と呼ぶ彼女からはバチバチと対抗心の火花を感じ、優しそうな笑顔の裏に恐怖を感じた。

 そのあと私はなぜかふたりと一緒にホテルの一室にいた。書類を見ながら仕事の話をする姿はとても真剣で、窓際の椅子に座って紅茶を飲んで待っている私は居心地の悪さを感じる。

 そのうち一哉さんの携帯が鳴って栞里さんとふたりっきりになったら、しんと静まり返る空気に耐えられず部屋を出て行こうとした。

「嘘なんやろ?」

 しかし聞こえてきた言葉に引き止められた。静かにコーヒーを飲む彼女は目が合った瞬間ににこっと微笑んでくる。

「調べさせてもろうたわ。一哉と結婚する直前までお付き合いされとった婚約者がいはったこと。破産寸前やったきもの鷹宮をどないして救うたのかってこと」

 そして何もかも見透かしたような顔をする。

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