イケオジ紳士は年の離れた彼女を一途に愛し抜く
なにも言えずにその場に佇んでいると、母親の凛とした声が玄関に響いた。

「お父さん。今日からよろしくお願いします」

祖父にお辞儀をした母親を真似て、「お願いします」とつぶやいて頭を下げる。

「こちらこそよろしく。暑かっただろ? さあ上がって」

「はい」

私たちを迎え入れてくれた祖父の温かい言葉にほっこりして、宗ちゃんの腕から降りたひまりとともに家に上がる。

玄関を入った左側の和室が祖父の部屋で、廊下を進んだ右側には台所と十二畳の居間が、その奥にはお風呂場と洗面所がある。

「宗也君、ありがとう」

「いえ。子供の成長って早いですね。ひまりちゃん、お正月に会ったときよりも重くなっていたから驚きました」

「そうか」

「はい」

祖父と宗ちゃんのやり取りを聞きながら居間に向かうと、仏壇の前で正座をする。

この家に訪れたときは、ご先祖様に挨拶するのがルール。背筋を伸ばして手を合わせる。

「お母さん。今日から親子三人でお世話になります」

母親が言う『お母さん』とは、私が幼稚園のときに他界した祖母のこと。

遊びに来るたびに「あかりちゃんは小さいときの由香によく似ているわ」と言って、私の頭をなでる祖母の優しい笑顔は今もハッキリと覚えている。
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