イケオジ紳士は年の離れた彼女を一途に愛し抜く
* * *

七月下旬の午後一時すぎ。

二歳になったばかりのひまりを抱いた母親の後に続いて、鎌倉駅に降り立つ。

住み慣れた東京のアパートを引き払って母親の実家がある鎌倉に引っ越して来たのは、父親の浮気が原因で両親が離婚したから。母子三人で暮らす私たちを心配した祖父の「帰って来い」という言葉に甘えることにしたのだ。

この夏休みが終わったら新しい学校に通うけれど、友だちができるか不安だし、転校の理由を聞かれてもどう答えればいいのかわからない。

憂鬱な気持ちで観光客で賑わうホームを進んで改札を通り抜けると、彼が私たちのもとに歩み寄って来た。

「おかえり」

「ただいま」

私たちを駅まで迎えに来てくれた宗ちゃんと母親が、ニコリと笑って挨拶を交わす。

鎌倉で生まれ育った彼から『おかえり』と言われると祖父の家に遊びに来たのではなく、これからこの地で生活していくのだという実感が込み上げてくる。

「あかりちゃん、ひまりちゃん。これからよろしくね」

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

お正月や夏休みに帰省するたびに宗ちゃんとは会っているけれど、改めて挨拶されるのは気恥ずかしい。

腰を屈めて私たちの顔を覗き込む彼から、慌てて視線を逸らしてぎこちなく頭を下げた。
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