イケオジ紳士は年の離れた彼女を一途に愛し抜く
「ひまりちゃん、おいで」

「うん!」

母親の腕の中にいるひまりを、宗ちゃんが軽々と抱きかかえる。

じっとしていても額に汗が滲む厳しい暑さのなか、祖父の家まで歩くのは小さいひまりには大変だろうし、体重が十三キロあるひまりをずっと抱き続けるのは母親もつらいはずだ。

細身なのに意外と力がある宗ちゃんに頼もしさを感じていると、母親が私の隣に並んだ。

「宗ちゃん、ありがとう。さあ、行きましょうか」

「うん」

祖父の家は、駅から十五分ほど歩いた高台にある。

夏特有の蒸し暑い空気を肌にまとい、地元の人しか通らない住宅街の細道を進む。そして赤い鳥居が並ぶ稲荷神社の角を曲がりって緩い坂道を上ると、右手に板張りの外装の木造二階建ての家が見えて来る。

お世辞にもオシャレとは言えない祖父の家は、母親が小学生のときに建てられたと聞いている。

どうせなら、湘南の青い海に映える白亜の家に住みたかった。

不満げに小さなため息をつくと、母親が玄関のすりガラスの引き戸を開けた。

「ただいま」

「おかえり」

私たちの到着を待ち兼ねたように、祖父が慌ただしく玄関先に姿を現す。

お正月や夏休みに遊びに来たときは「お邪魔します」と挨拶して家に上がっていたけれど、母親と同じように「ただいま」と言うのはなんだか照れくさい。
< 9 / 55 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop