色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅱ
魔法をかけます
飛行機に乗って約2時間。
着陸して、飛行場に到着したかと思えば、ターミナルからリムジンバスに乗って約1時間。車内は満席で、うんざりとしながらバス内の時間を過ごす。
私がこれから向かおうとしているティルレット王国は、入国審査がとても厳しいことで有名なのだ。
小さな国とはいえ、秘密事項が多く。
知っていることといえば、文明が発達していないから、スマホ等の電子機器は一切なく、
何よりも、魔法が使えない国だという…。
バスを降りて、ぎょっとするのは。
目の前に剣を持って睨みつけている男たちだ。
「怖っ」
思わず声に出すと、ギロリと大きな目で男たちがこっちを見てくる。
紺色の制服を着た騎士団。
数メートルおきに騎士団の男が一人ずつ見張って入国者を見定めている。
見た目が、どう見ても廃墟じゃん…と突っ込みたくなるような建物に人々は吸い込まれて行く。ここが、どうやら入国審査所らしい。
中に入ると、見た目とは違って綺麗な空間で、パイプ椅子が数えきれないほど置かれてある。
カウンターに必要な書類を提出して。
空いている椅子に座り込んで、思わずため息が出る。
…ここからが長くなるらしい。
書類を舐め回すように、ゆっくりと物色されて、調べられ。
酷い時には一日、ここに座って待っていなければならないとか。
(どうなっちゃうんだろう…)
空港にいる時のように、大きな荷物を持った人たちが座って待っている。
テイリーが「知り合いに声をかけておいたから大丈夫ですよ」とは言っていたけど…
近くで老夫婦が座って、珈琲らしき物を紙コップで飲んでいる。
そんな2人をぼんやりと眺めながら、これからどうなるんだろうなと、また、ため息が出た。
入国審査が厳しいとはいえ、例外的に審査が緩和することがある。
それは、入国する本人自身の親戚にティルレット人がいるということ、
もう一つは、簡単に言えばコネだ。
貴族や騎士団に知り合いが居て、その人達が動いてくれれば簡単に入国できるという。
…それが本当かどうかは怪しいところだけれど。
自分の周りにティルレット王国へ行った者がいないから。
本当に未知の世界だ。
3回目のため息をついていると、「ミスマルティネスですか?」と男に呼ばれ、思わず「はいっ」と飛び上がった。
前を向くと、「あれ?」と声を漏らしてしまう。
騎士団の格好をしたスカジオン人が立っていたからだ。
ティルレット人は一般的に茶色い髪に茶色い瞳、色白でほっそい身体だと聞いているけど。
目の前に立っている男は、茶色寄りの金髪に緑色の瞳、色白の肌。
彫の深い目でじっとこっちを見ている。
年は20代後半だろうか?
立ち上がってみると、身長はさほど変わらなかった。
「テイリーくんから連絡があって、行きましょう」
「あ、はい」
男性は「持ちますよ」と言ってさりげなく、私が持ってきたスーツケースを取って運びながら歩き出した。
人々の騒音からかけ離れて、階段を上って建物の2階へ進むと。
誰の姿もなかった。
真っ白な廊下があって。
「ここでいいか」と男性はドアを開けた。
中に入ると、刑事モノのドラマで見るような取り調べ室だった。
机に、椅子が二つ。
壁には鏡がある。
いやぁな予感を感じながらも、男性の前に座り込む。
「まずは、はじめまして。僕の名前は…って自己紹介したいところなんだけど。身分の関係上、本名を明かすことができません」
「…はい」
ぎょろりとした大きな目で男性が私を見つめる。
まるで本当に取り調べにあっているような緊張感がある。
男性は姿勢を正して、こっちを見る。
「まあ、テイリー君の知人Aとでも頭の片隅に入れておいてもらえればと思います」
「…知人Aって…」
何だそりゃ。
「あ、もしくは緑目の男って言えばすぐわかりますから。僕を呼ぶときはそうしてください」
「……」
悪魔でも名前を公表することは出来ないらしい。
ということは、この人は身分が高いってことなんだろう。
ティルレット王国で身分の高い者は本名を明かす習慣がないという。
まぁ、それはどの国でもあるあるだし、私の国でもそうだから。
「はい、わかりました」と言って聞き流す。
「簡単に自己紹介すると、僕の父親がスカジオン人でテイリー君の父親と幼なじみの関係で、そのせいもあってか、僕とテイリー君は顔見知りなんだ」
「…そうなんですか」
やっぱり、私はテイリーのことを何一つ知らないのだと落ち込む。
…ただ、友達ではなく、「顔見知り」と言い切るのは何だか笑える。
「さっそくなんですが、ミスマルティネスは、この国に永住するつもりですか?」
「えっ」
永住…という究極の言葉に頭が真っ白になる。
ヒューゴと婚約破棄に遭い、傷心のまま祖国を出たというものの、
永住という言葉の重みに何も思い浮かばない。
男性の言葉に凍り付いていると、急に男性は「あははは」と下品に笑い出した。
その反応にむっとすると。
「あ、すいません。大丈夫です。ちょっと確認したかっただけなんで」
あー、面白いなあと言いながら男性は真顔に戻る。
「はっきり言っておきますが、貴女は美人で若いので、この国では目立ちすぎます」
「は?」
急に笑ったかと思えば、グサッと酷いことを言われたような…
「庶民として生活するならば、貴女の容姿は生活に大きく影響するでしょう。だから」
「だから?」
男性の言葉をオウム返しすると、男性は左手をパーにしてこっちに向けた。
「魔法をかけます」
着陸して、飛行場に到着したかと思えば、ターミナルからリムジンバスに乗って約1時間。車内は満席で、うんざりとしながらバス内の時間を過ごす。
私がこれから向かおうとしているティルレット王国は、入国審査がとても厳しいことで有名なのだ。
小さな国とはいえ、秘密事項が多く。
知っていることといえば、文明が発達していないから、スマホ等の電子機器は一切なく、
何よりも、魔法が使えない国だという…。
バスを降りて、ぎょっとするのは。
目の前に剣を持って睨みつけている男たちだ。
「怖っ」
思わず声に出すと、ギロリと大きな目で男たちがこっちを見てくる。
紺色の制服を着た騎士団。
数メートルおきに騎士団の男が一人ずつ見張って入国者を見定めている。
見た目が、どう見ても廃墟じゃん…と突っ込みたくなるような建物に人々は吸い込まれて行く。ここが、どうやら入国審査所らしい。
中に入ると、見た目とは違って綺麗な空間で、パイプ椅子が数えきれないほど置かれてある。
カウンターに必要な書類を提出して。
空いている椅子に座り込んで、思わずため息が出る。
…ここからが長くなるらしい。
書類を舐め回すように、ゆっくりと物色されて、調べられ。
酷い時には一日、ここに座って待っていなければならないとか。
(どうなっちゃうんだろう…)
空港にいる時のように、大きな荷物を持った人たちが座って待っている。
テイリーが「知り合いに声をかけておいたから大丈夫ですよ」とは言っていたけど…
近くで老夫婦が座って、珈琲らしき物を紙コップで飲んでいる。
そんな2人をぼんやりと眺めながら、これからどうなるんだろうなと、また、ため息が出た。
入国審査が厳しいとはいえ、例外的に審査が緩和することがある。
それは、入国する本人自身の親戚にティルレット人がいるということ、
もう一つは、簡単に言えばコネだ。
貴族や騎士団に知り合いが居て、その人達が動いてくれれば簡単に入国できるという。
…それが本当かどうかは怪しいところだけれど。
自分の周りにティルレット王国へ行った者がいないから。
本当に未知の世界だ。
3回目のため息をついていると、「ミスマルティネスですか?」と男に呼ばれ、思わず「はいっ」と飛び上がった。
前を向くと、「あれ?」と声を漏らしてしまう。
騎士団の格好をしたスカジオン人が立っていたからだ。
ティルレット人は一般的に茶色い髪に茶色い瞳、色白でほっそい身体だと聞いているけど。
目の前に立っている男は、茶色寄りの金髪に緑色の瞳、色白の肌。
彫の深い目でじっとこっちを見ている。
年は20代後半だろうか?
立ち上がってみると、身長はさほど変わらなかった。
「テイリーくんから連絡があって、行きましょう」
「あ、はい」
男性は「持ちますよ」と言ってさりげなく、私が持ってきたスーツケースを取って運びながら歩き出した。
人々の騒音からかけ離れて、階段を上って建物の2階へ進むと。
誰の姿もなかった。
真っ白な廊下があって。
「ここでいいか」と男性はドアを開けた。
中に入ると、刑事モノのドラマで見るような取り調べ室だった。
机に、椅子が二つ。
壁には鏡がある。
いやぁな予感を感じながらも、男性の前に座り込む。
「まずは、はじめまして。僕の名前は…って自己紹介したいところなんだけど。身分の関係上、本名を明かすことができません」
「…はい」
ぎょろりとした大きな目で男性が私を見つめる。
まるで本当に取り調べにあっているような緊張感がある。
男性は姿勢を正して、こっちを見る。
「まあ、テイリー君の知人Aとでも頭の片隅に入れておいてもらえればと思います」
「…知人Aって…」
何だそりゃ。
「あ、もしくは緑目の男って言えばすぐわかりますから。僕を呼ぶときはそうしてください」
「……」
悪魔でも名前を公表することは出来ないらしい。
ということは、この人は身分が高いってことなんだろう。
ティルレット王国で身分の高い者は本名を明かす習慣がないという。
まぁ、それはどの国でもあるあるだし、私の国でもそうだから。
「はい、わかりました」と言って聞き流す。
「簡単に自己紹介すると、僕の父親がスカジオン人でテイリー君の父親と幼なじみの関係で、そのせいもあってか、僕とテイリー君は顔見知りなんだ」
「…そうなんですか」
やっぱり、私はテイリーのことを何一つ知らないのだと落ち込む。
…ただ、友達ではなく、「顔見知り」と言い切るのは何だか笑える。
「さっそくなんですが、ミスマルティネスは、この国に永住するつもりですか?」
「えっ」
永住…という究極の言葉に頭が真っ白になる。
ヒューゴと婚約破棄に遭い、傷心のまま祖国を出たというものの、
永住という言葉の重みに何も思い浮かばない。
男性の言葉に凍り付いていると、急に男性は「あははは」と下品に笑い出した。
その反応にむっとすると。
「あ、すいません。大丈夫です。ちょっと確認したかっただけなんで」
あー、面白いなあと言いながら男性は真顔に戻る。
「はっきり言っておきますが、貴女は美人で若いので、この国では目立ちすぎます」
「は?」
急に笑ったかと思えば、グサッと酷いことを言われたような…
「庶民として生活するならば、貴女の容姿は生活に大きく影響するでしょう。だから」
「だから?」
男性の言葉をオウム返しすると、男性は左手をパーにしてこっちに向けた。
「魔法をかけます」
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