色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅱ

ピアノ講師の依頼

 ティルレット王国に来て、3ヵ月が経った。
 楽器屋の店主さんに教えてもらい、町にある礼拝堂へ行ってみると悲しいことに、伴奏者は昨日決まりました。と、申し訳なさそうに神父様に言われてしまった。
 ショックで眩暈をおこしていると、神父様は私を見て可哀想に思ってくれたのか、
「伴奏者は決まってしまいましたが、コンサートに出てくれませんか?」
 と提案してくれた。
 募集していた礼拝での伴奏者ではなく、月に一度行われる子供向けのコンサートで是非、何か一曲弾いてほしいという依頼だった。

 これをキッカケに何か変われるかもしれないと思い、「やります!」と即答。
 それから、楽器屋さんに戻って、この国の子供たちがどんな曲を好んでいるのか店主さんに教えてもらい、楽譜を購入。
 家に帰って練習する毎日。
 テイリーはわかっていたのだろうか。
 家にグランドピアノを用意してくれていた。(高価なヤツ)
 町はずれにあるから音をあまり気にすることなく、夜中でも弾くことが出来た。

 シナモンは、近所でこの国の人達はどんな曲が好きなのかを世間話をしながら聞き出してくれて、更に自分の仕えている奥様はピアニストだとさり気なくアピールしてくれていたらしい。

 礼拝堂で行われたコンサートは大反響だった。
 子供たちが喜んで手拍子してくれたのは今でも忘れない。

 ぽつぽつと、ピアノの先生としての仕事が入ってくるようになった。
 主に中流階級の子供たちの家へ行ってピアノを教える仕事だ。
 あとは、礼拝堂で行われるピアノのコンサートに出演したり、飲み屋でピアノを弾く仕事をもらうこともあった。

「ピアノの講師のご依頼ですか? ええ、ああ・・・、はい」
 家に備え付けてもらった電話で、会話をしていると。
 何時代の電話なんだろうと突っ込んでいた自分が懐かしい。
 スマートフォンに慣れていた私はいない。
 壁に掛かっている四角い箱に向かって私は会話しているのさ。
 まさか、この四角い箱が電話とは…番号はプッシュ式じゃなくて、ダイヤル式だし。
「いちご様…12歳でございますか? わかりました。ハイ、木曜日に伺います」
 若い男の人の声だった。
 いちごと呼ばれる12歳の女の子にピアノを教えてほしいという。

 教えてもらった住所を手元にあるメモ帳に書いたのだが、
 私はいまだにこの町についてわかっていなかったので、
 掃除していたシナモンに「ここ、どこ?」と尋ねた。
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