色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅱ
最強の生徒!?
木曜日、シナモンに向かって「行ってきます」と言って家を出る。
初めての家を訪問するときは凄く緊張する。
ピアノを教えてみて、第一印象が大事だってことは嫌だと感じるくらい身をもって経験した。
第一印象で、「今回はご縁がなかったことで」と言われたことが2回ほどあった。
まあ、合わないのは仕方ないんだろうけど。
傷つくことは、傷つく。
不思議なのは、40代の身体になってダメージが思っているほど少ないことだ。
本来の18歳である私の身体だったら寝込むくらいのダメージなのに。
相手に酷いことを言われても「そうですか」と冷静に言えてしまう。
自分の想い通りにいかないことなんて多々あるけど、家に帰ってシナモンに愚痴をこぼしていたら次の日には忘れてしまう。
家から10分ほどで辿り着いたのは水色のお家だった。
2階建ての屋根がとんがったお家。
「屋敷」ではなく、「お家」と言うにふさわしい外観。
腰ぐらいの高さである門を空け、石畳の道を数歩歩けば、すぐに玄関に辿り着く。
「こんにちは、ピアノを教えにまいりましたエアーです」
アリア・ミューゼス・・・本名で通しても良かったんだけれど。
名前で通してしまうと、色々と面倒臭いようなんで。
「ピアノの先生」とか「エアー夫人」と名乗ることにした。
エアー夫人というのは、シナモンが私のことを「アリア様」と呼ぶのを聞いた一人の生徒の子が「エアー」と聞き間違えたのがきっかけだ。
呼び名なんて、特に気にしていなかったので。エアー夫人と言われてもなんの違和感もない。
「こんにちは、本日より、イチゴ様にピアノを教えることになりました・・・」
もう一度、大きな声で言うと。
誰かがこっちに向かって走ってくるような音がして。
ガチャリと扉が開いた。
「入って」
中から出てきたのは、子役タレントの子ですか? と言いたくなるような、
一般人とは違うキラキラとしたオーラの女の子が出てきた。
「イチゴさん…ですか?」
「こっち、早く早く!」
こっちの質問には答えず、女の子は走っていく。
「お邪魔します」
中に入って、女の子の後を追いかけて一室に入った。
部屋を見ると、応接間なのか。
手前に革製の椅子とガラス製のローテーブルが置いてある。
奥にあるのは、黒いアップライトピアノだ。
ピアノの前に女の子は座り込むと「えへへ」と声を出して笑った。
この子に教えるのか…。
「あの、ご家族の方は?」
初回はご家族の方と教える本人を交えて、レッスンについて話し合うのが一般的だ。
「いない」
足をぶらぶらさせて、女の子…たぶん、イチゴちゃんが言う。
「じゃあ、保護者の方は?」
「いない」
「じゃあ、誰か大人の人は?」
「いないっ」
質問すればするほど、イチゴちゃんはどんどん不機嫌になっていく。
「えっと…うーん。どうしようか」
生徒が一人しかいないというパターンは初めてなので、どうしようかと考える。
中流階級の人間に教える場合、子供が家に一人ぼっちなんてことは絶対にありえない。
「えっと…イチゴさんはピアノを習っていたことはあるのかしら?」
「……」
質問をしたのだが、イチゴちゃんは前をまっすぐ見ながら黙り込む。
「えっと…じゃあ、楽譜は読める?」
「……」
「じゃあ、こんな曲弾きたいとか、将来ピアニストになりたいとか、なんでもいいよ。どうなりたいのかな?」
イチゴちゃんは、こっちをゆっくりと見ると、
「ピアニストになりたい!」
美しい顔で、言い切ったのだった。
初めての家を訪問するときは凄く緊張する。
ピアノを教えてみて、第一印象が大事だってことは嫌だと感じるくらい身をもって経験した。
第一印象で、「今回はご縁がなかったことで」と言われたことが2回ほどあった。
まあ、合わないのは仕方ないんだろうけど。
傷つくことは、傷つく。
不思議なのは、40代の身体になってダメージが思っているほど少ないことだ。
本来の18歳である私の身体だったら寝込むくらいのダメージなのに。
相手に酷いことを言われても「そうですか」と冷静に言えてしまう。
自分の想い通りにいかないことなんて多々あるけど、家に帰ってシナモンに愚痴をこぼしていたら次の日には忘れてしまう。
家から10分ほどで辿り着いたのは水色のお家だった。
2階建ての屋根がとんがったお家。
「屋敷」ではなく、「お家」と言うにふさわしい外観。
腰ぐらいの高さである門を空け、石畳の道を数歩歩けば、すぐに玄関に辿り着く。
「こんにちは、ピアノを教えにまいりましたエアーです」
アリア・ミューゼス・・・本名で通しても良かったんだけれど。
名前で通してしまうと、色々と面倒臭いようなんで。
「ピアノの先生」とか「エアー夫人」と名乗ることにした。
エアー夫人というのは、シナモンが私のことを「アリア様」と呼ぶのを聞いた一人の生徒の子が「エアー」と聞き間違えたのがきっかけだ。
呼び名なんて、特に気にしていなかったので。エアー夫人と言われてもなんの違和感もない。
「こんにちは、本日より、イチゴ様にピアノを教えることになりました・・・」
もう一度、大きな声で言うと。
誰かがこっちに向かって走ってくるような音がして。
ガチャリと扉が開いた。
「入って」
中から出てきたのは、子役タレントの子ですか? と言いたくなるような、
一般人とは違うキラキラとしたオーラの女の子が出てきた。
「イチゴさん…ですか?」
「こっち、早く早く!」
こっちの質問には答えず、女の子は走っていく。
「お邪魔します」
中に入って、女の子の後を追いかけて一室に入った。
部屋を見ると、応接間なのか。
手前に革製の椅子とガラス製のローテーブルが置いてある。
奥にあるのは、黒いアップライトピアノだ。
ピアノの前に女の子は座り込むと「えへへ」と声を出して笑った。
この子に教えるのか…。
「あの、ご家族の方は?」
初回はご家族の方と教える本人を交えて、レッスンについて話し合うのが一般的だ。
「いない」
足をぶらぶらさせて、女の子…たぶん、イチゴちゃんが言う。
「じゃあ、保護者の方は?」
「いない」
「じゃあ、誰か大人の人は?」
「いないっ」
質問すればするほど、イチゴちゃんはどんどん不機嫌になっていく。
「えっと…うーん。どうしようか」
生徒が一人しかいないというパターンは初めてなので、どうしようかと考える。
中流階級の人間に教える場合、子供が家に一人ぼっちなんてことは絶対にありえない。
「えっと…イチゴさんはピアノを習っていたことはあるのかしら?」
「……」
質問をしたのだが、イチゴちゃんは前をまっすぐ見ながら黙り込む。
「えっと…じゃあ、楽譜は読める?」
「……」
「じゃあ、こんな曲弾きたいとか、将来ピアニストになりたいとか、なんでもいいよ。どうなりたいのかな?」
イチゴちゃんは、こっちをゆっくりと見ると、
「ピアニストになりたい!」
美しい顔で、言い切ったのだった。