色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅱ
「じゃあ、送っていきましょう」
ピアニストとして、
40代の見た目になって、別人として生きる人生を歩み始めてからは。
上手くいっているんだろうなあと、考えるようになる。
それは、がむしゃらにピアノの練習をしている時。
疲れ果てて、楽譜がぼやけて見えた時。
ふと、考えてしまう。
きっと、婚約破棄されてテイリーが助けてくれなかったら。
冤罪で逮捕されて、犯罪者のレッテルを貼られ、
きっと幽閉されて生涯を終えるのではないか…と。
・・・と、言っても。
すべてが順調に…うまくいっているわけじゃない。
イチゴのように困った生徒だっているし、親御さんに文句言われることだってあるし…
それでも、楽しいと思える。
鏡に映る私は年食っているし、頬にはうっすらとシミがあるのが気にくわないけど。
新しい人生は楽しい。
「ありがとうございました」
店員さんにペコペコと頭を下げてお店を出ると、
ぴゅうという冷風に、ぶるりと身体を震わせる。
四季がない国とはいえ、夜は肌寒く。
シナモンが言った通り、厚手の上着を持ってきてよかった。
今夜はレストランでピアノ演奏を2時間お願いされた。
なんのパーティーなのかはわからないけど、店を貸し切って20代くらいの男女がお喋りしたり踊ったりしていた。
「疲れたなぁ…」
21時を過ぎても商店街は人手が多い。
さて、帰るかと左を向くと、見覚えのある顔があった。
「あれ、先生じゃないっすか!」
リスのような目でこっちを捕らえたかと思うと、その男性はこっちにやって来る。
たまに商店街で見かける騎士団の制服を着た男性に思わず「うわぁ」と言ってしまった。
「先生、どうしたんすか?」
「…ちょっと、仕事があって。太陽様こそ…その格好は?」
以前会ったときは、国家騎士団の制服を着ていたのに、
今は黒っぽい色の…はっきりと言ってダサい制服を着ている。
上下同じ暗めの色に金色の大きな丸ボタンが3つ。
エンブレムは一切なく、なんか…全体的にダサい。
「ああ、俺。今、兄のところで働いてるんです」
「領主様のところで?」
首を傾げていると、後ろに立っていたもう一人の騎士団が「おい、太陽!」と大声を出す。太陽様は「先、行ってて」と言った。
「今、帰りっすか?」
頭の先からつま先までジロリと見られ、
何だか嫌な気持ちになった。
「はい。そうです。…では、ごきげんよ…」
「じゃあ、送っていきましょう」
さほど、背丈の変わらない太陽様の一言に、「ぎえっ」と声が出てしまう。
あの手紙を無視してしまった後ろめたさが今になって押し返ってくる。
「あの、大丈夫です。それより、太陽様、お仕事中でしょう? それでは、ごきげんよ…」
「町民の皆さんを守るのが騎士団の仕事なんで、送っていきます」
「いえ…、ほんと大丈夫なんで」
両手をぶんぶんと振るが、太陽様は真剣な顔でこっちを見てくる。
「先生、治安の悪さを舐めないでいただきたい」
「へ?」
「女性一人が帰るってことがどれだけ危険かってことを自覚してください」
なんで、年下に説教されているんだろうというイラッという気持ちが走る。
通りゆく人達が、チラチラとこっちを見てくる。
別に私は悪い事なんてしていないのに…
「あの、…じゃあ、そうです。馬車に乗って帰るので大丈夫ですんで」
本当は歩いて帰る気満々だったけど。
とっさに思いつく。
「では、馬車乗り場まで送っていきますよ」
ニコッと笑う太陽様は、
どこかイチゴが悪だくみをしているときの笑顔に似ていた。
40代の見た目になって、別人として生きる人生を歩み始めてからは。
上手くいっているんだろうなあと、考えるようになる。
それは、がむしゃらにピアノの練習をしている時。
疲れ果てて、楽譜がぼやけて見えた時。
ふと、考えてしまう。
きっと、婚約破棄されてテイリーが助けてくれなかったら。
冤罪で逮捕されて、犯罪者のレッテルを貼られ、
きっと幽閉されて生涯を終えるのではないか…と。
・・・と、言っても。
すべてが順調に…うまくいっているわけじゃない。
イチゴのように困った生徒だっているし、親御さんに文句言われることだってあるし…
それでも、楽しいと思える。
鏡に映る私は年食っているし、頬にはうっすらとシミがあるのが気にくわないけど。
新しい人生は楽しい。
「ありがとうございました」
店員さんにペコペコと頭を下げてお店を出ると、
ぴゅうという冷風に、ぶるりと身体を震わせる。
四季がない国とはいえ、夜は肌寒く。
シナモンが言った通り、厚手の上着を持ってきてよかった。
今夜はレストランでピアノ演奏を2時間お願いされた。
なんのパーティーなのかはわからないけど、店を貸し切って20代くらいの男女がお喋りしたり踊ったりしていた。
「疲れたなぁ…」
21時を過ぎても商店街は人手が多い。
さて、帰るかと左を向くと、見覚えのある顔があった。
「あれ、先生じゃないっすか!」
リスのような目でこっちを捕らえたかと思うと、その男性はこっちにやって来る。
たまに商店街で見かける騎士団の制服を着た男性に思わず「うわぁ」と言ってしまった。
「先生、どうしたんすか?」
「…ちょっと、仕事があって。太陽様こそ…その格好は?」
以前会ったときは、国家騎士団の制服を着ていたのに、
今は黒っぽい色の…はっきりと言ってダサい制服を着ている。
上下同じ暗めの色に金色の大きな丸ボタンが3つ。
エンブレムは一切なく、なんか…全体的にダサい。
「ああ、俺。今、兄のところで働いてるんです」
「領主様のところで?」
首を傾げていると、後ろに立っていたもう一人の騎士団が「おい、太陽!」と大声を出す。太陽様は「先、行ってて」と言った。
「今、帰りっすか?」
頭の先からつま先までジロリと見られ、
何だか嫌な気持ちになった。
「はい。そうです。…では、ごきげんよ…」
「じゃあ、送っていきましょう」
さほど、背丈の変わらない太陽様の一言に、「ぎえっ」と声が出てしまう。
あの手紙を無視してしまった後ろめたさが今になって押し返ってくる。
「あの、大丈夫です。それより、太陽様、お仕事中でしょう? それでは、ごきげんよ…」
「町民の皆さんを守るのが騎士団の仕事なんで、送っていきます」
「いえ…、ほんと大丈夫なんで」
両手をぶんぶんと振るが、太陽様は真剣な顔でこっちを見てくる。
「先生、治安の悪さを舐めないでいただきたい」
「へ?」
「女性一人が帰るってことがどれだけ危険かってことを自覚してください」
なんで、年下に説教されているんだろうというイラッという気持ちが走る。
通りゆく人達が、チラチラとこっちを見てくる。
別に私は悪い事なんてしていないのに…
「あの、…じゃあ、そうです。馬車に乗って帰るので大丈夫ですんで」
本当は歩いて帰る気満々だったけど。
とっさに思いつく。
「では、馬車乗り場まで送っていきますよ」
ニコッと笑う太陽様は、
どこかイチゴが悪だくみをしているときの笑顔に似ていた。