色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅱ
 異様に静かな空間に思えた。
 近所から音が聞こえることもなく、太陽様の庭は静かだ。
 目の前に座っている太陽様は恐らく、モテるんだろうなあと思う。
 背はそんなに高くはないけれども、小動物のようなクリクリの目に。
 制服で隠れてはいるんだろうけどマッチョなのがわかる。
 こういうアイドル、自分の国にいたなあ…だなんて考えてしまう。
「イチゴが他人と暮らすのを酷く嫌がるんで、まあ昔はお手伝いさんたちと一緒に暮らしていた時期もあったんすけど…結果的には通いという形で落ち着きました」
「…へえ」
 あのワガママなイチゴ姫がお手伝いさんを追っ払ったということなのだろうか。
「でも、不便じゃないですか?」
「んー。他人から見れば不便なのかもしれないけど、アイツの為でもあるから。うちはちょっと他所とは違う形を選んだってことです」
 イチゴのためにお手伝いさんが(そば)にいない。
 だから、この前みたいに病人が一人家で過ごす羽目になるという状況を作ってるんじゃないか…
 何だか、話を聴いていると無性に腹が立ってきた。
「…でも、そうすると。太陽様が国家騎士団にいるときはイチゴ様が一人ぼっちで過ごしているってことですよね? 夜なんて危険じゃないですか?」
「ああ、夜は兄が命令して、騎士団の誰か一人か二人、家の前で警備するようにしていますんで。大丈夫っす」
 太陽様はそう言うと、丸型のクッキーを一枚口に放り込んだ。
「ちなみに俺が家にいるときは警備はしてないんで、夜うちの前を覗いても誰も立ってないっすよ」
「…そうですか」
 別に興味ありませんけど。
 シナモンは「お代わりはいかがですか?」と言って、太陽様のカップにコーヒーを注ぐ。
 太陽様は「どうも」と言って頭を下げる。

「先生は、結婚なさってるんですか?」

 急に。
 なんの前ぶれもなく。
 ド直球の質問が飛んできたので、私はゴホゴホとむせる。
 話の脈絡がなさすぎじゃない!?

 私はシナモンをチラッと見るが、シナモンは助ける素振りを見せてもくれなかったので。
 ふぅ…と深呼吸する。
「…一応、してます」
「・・・そうだったんですか」
 太陽様は沈んだ声を出したので、何かまずいことでも言ってしまったのかと思った。
「じゃあ、旦那さんと暮らしてるんですね」
「…いえ、夫は半年前に亡くなったので。シナモンと2人で暮らしてます」
「…マジっすか?」
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