色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅱ

不審者、現る。

 魔力がない、スペックがあっても何の役にも立たない私は。
 身分の高いヒューゴと結婚して幸せになる予定だった。

 がむしゃらに生活してきたけど。
 ふと、考える。
 私は、この国で何をしたいんだろう?

 魔法をかけられて40歳のオバサンの姿になって。
 毎日、ピアノを教え、ピアノを弾き続けることを繰り返している。
 婚約破棄の傷が癒えたかと言われたら、それは一生消えない。
 胸に負った傷はいつまでも残っている。
 あの女が憎いことは変わりないし。
 嫌なことがあるたびに、私は今頃お金持ちと結婚して幸せになっているはずなのにと考えてしまう。

 がむしゃらにピアノを弾き続けていて、疲れて。
 譜面台に寄りかかるようにして、うとうとしていると。
 ドアがばあんっ! と勢いよく開いたので、ビクッと跳ね上がる。
 壁に飾られた時計を見ると夜中の2時を回っている。
「エアー様。外に誰かいます!」
 ランタンに映し出されたシナモンの顔がぼんやりと浮かび上がっていて怖い。
 シナモンは片手にランタン、もう片手にはハンマーを持っている。
「この気配はアイツか…」
 悪魔のような恐ろしい表情を浮かべたシナモンは走って玄関へと向かう。
「え、シナモン。えっ!?」
 半分、寝ぼけている私は訳がわからないままシナモンの跡を追う。
 玄関を出て、門を開けて。
 すぐにシナモンの姿を見失う。
 夜の冷気に身体をブルリと震わせて、なんなのだろうと立ち尽くす。

「エアー様。ひっとらえました」
 1分もしないうちにシナモンは誰かの腕を引っ張って戻って来た。
 …なんとなく予感はしたけど。
 シナモンの隣に立っているのは、太陽様だった。
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