色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅱ

事件は突然起こる。

 この国に来て、早いもので5ヵ月が経つ。
 平日は生徒のもとへ通い、ピアノを教える。
 週末は礼拝堂へ行ったり、レストランでピアノを弾く。

 太陽様とは毎日、顔を見合わせてデートに誘われるという感じだったけど。
 ここ3日ほど顔を見ていない。
「先生、今日限りでレッスンは結構です」
「え?」
 門前払いとは、まさにこのことだろうか。
 中流階級の生徒の家へ行ったときのことだ。
 侍女の方に、はっきりとレッスンを辞める旨を告げられた。
「どうしてですか?」
「…それは、ご自身でお考えください」
 50代の侍女の言い方は冷たく、ドアを思いっきり閉められた。

「さすがに…おかしい」
 思いきり独り言を言いながら、歩き出す。
 昨日から立て続けに4件。
「レッスンはもう結構です」と断られた。
 理由を聞いても、答えてもらえない。

 まさか、カリスマ的なピアノの先生が突如、ライバルとして現れて。
 生徒を奪ってしまったのだろうか。
 …昔、見ていたドラマの見過ぎだろうか。
 それとも、飽きっぽい貴族にとって、ピアノを弾くという行為はもうフルイと考えられてしまったのだろうか。

 ため息をついて、礼拝堂へと足を運ぶ。
 だが、礼拝堂を目の前にして、異変に気づいた。
「どういうことよ…」
 扉はしっかりと施錠されており、張り紙が貼ってある。

「エアー先生は立ち入り禁止」
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