色褪せて、着色して。~悪役令嬢、再生物語~Ⅱ
 私は元々、隣国であるスカジオン王国に生まれ育ち、今頃。身分の高いヒューゴと結婚しているはずだった。
 だけど、アミラというブスの登場により、ヒューゴはアミラと結婚すると言い出して、私に婚約破棄という言葉と、ついでにアミラに嫌がらせをした容疑で犯罪者に仕立て上げ、逮捕させるとまで言ってきた。
 絶体絶命の私を救ってくれたのが、幼なじみであるテイリーだった。

 テイリーは平民だとばかりずっと思っていたけど。
 実は、スカジオン王国の王族であり、王位継承者であるという素性を持っていた。
 王族というコネを使って私をティルレット王国で別人として生きる道を作ってくれた。

 半年ぶりなので、もう懐かしいという思いでいっぱいだし、何でここにいるのかがわからない。
「とりあえず、座りましょうか。ちゃんと説明しますから」
 テイリーの言葉に、頷いてソファーに座り込む。

 テイリーの後ろには、シナモンが立っている。
 そして、窓側には緑目の男とジャックさんが立っている。
 てっきり、私とテイリーが会話をするのだから気を利かせて出て行ってくれるのだと思っていたのに、出ていく気配がない。
「実は、昨日・・・」
「え、ちょっとまってテイリー。人払いをしたほうが…」
 窓側に立っている2人をチラリと見る。
「ああ、あの2人はちゃんと事情を知ってるから大丈夫」
「え…ジャックさんも!?」
 緑目の男とテイリーが知り合いなのは知っているけど。
 ジャックさんも?

「先輩のこと助けたのは、彼なんでしょう?」
 テイリーはジャックさんを見た。
「そうだけど・・・」
 なんだか腑に落ちないけど…事情があるのだろうから黙っておく。

「昨日、学校にいたらいきなりピンクがやってきて、わめき散らすからさー。驚いてこっちに来たんだ」
 ピンクというのはシナモンの呼び名だ。
 私はシナモンを見る。
「昨日、エアー様をお見送りした後。部屋の掃除をしていたら、何か嫌な予感がしたんです」
 妖精であるシナモンの直感・予感は凄くよく当たる。
「そうしたら、ドアをこじ開けて誰かが入ってきて、とっさに妖精サイズになって身を隠していました」
「…そう、大丈夫だったの?」
「勿論です。わたくしが人間ごときにやられるわけありません!」
 人間ごとき…と大声で言ってしまうシナモンにオロオロしたが、
 ジャックさんと緑目の男は苦笑している。
「4人のガラの悪い男が入ってきて…強盗だなあとは思ったんです。でも、何か様子が変というか…。金品を取ればいいはずなのに、わざわざ家の中のものを一個ずつ破壊していって…。ピアノに関しては、別に壊す必要ないじゃないですか」
 ピアノ…という言葉に頭がグラグラと揺れた。
 私を見たシナモンは「ごめんなさい」と謝る。
「エアー様が大切にしていたピアノなのに、私は見ているだけで何もできませんでした」
「ううん、いいの。シナモンが無事でいてくれれば」
 私が言うと、テイリーが顔をしかめているのが視野に入る。
 いや、何でそういう顔をするかね?
「ピアノを器用に真っ二つにしたのを見て、本気で腹が立ちまして奴らの後をついて行ったんです」
「…勇気あるね、シナモン」
「そうしたら、そいつらに命令していた親玉の正体を知って。急いでテイリー様の元へ飛んで行ったんです」
 隣国まで戻るのに、そんなに早く行ける? という疑問がよぎったけど。
 シナモンだったら「妖精の力」とやらで、どうにかしたに違いない。

「先輩を懲らしめた人間を許すわけにはいきませんからね。彼らに連絡して僕がやって来たわけです」
「…そうなんだ」
 話を一気に聞き終えて、「ふう」と大きなため息をついた。
 シナモンが無事だったという安堵で全身の力が抜けていく。
「私は、幸せになれないのかな」
 ぽつりと何も考えずに、思いが溢れる。
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