11年目のバレンタイン〜恋を諦める最後の告白
真人さん
「お帰りなさい」
「ああ、ただいま美幸ちゃん」
麗奈が2皿目のカツカレーを平らげたあと、バイトに出かけた後にちょうど真人さんが帰ってきた。
(美幸“ちゃん”か……やっぱり、真人さんにとってわたしは永遠に子ども……なんだなあ)
幼稚園の頃から変わらない呼び方は、10歳の年齢差が大きなものだと思い知らされるには十分だ。
真人さんが脱いだコートをいつものハンガーにかけて、風通しがいい場所でブラシをかける。こんなふうにお世話できるのも、あと少し。秋からは違う女の人の役割になるんだな…と。涙がこぼれ落ちそうになる。
でも、暗い顔は見せたくない。結婚が決まった幸せな彼に、余計な心配はかけないようにしないと。
「いい匂いがするね。もしかして、カレーかい?」
カレーをあたため直していると、簡素な部屋着に着替えた真人さんがキッチンに入ってきた。モノトーンのリネンシャツとぴっしり折り目がついた綿のパンツ。
そのまま外出出来そうなきっちりした格好だけど、さっきまでぴっしりとスタイリングされた髪は少し乱れ、細いフレームだった眼鏡は分厚い眼鏡に変わってる。
仕事と私生活の切り替えを見ることが出来る幸せに、ドキドキと鼓動が速くなっていく。
極めつけは、スッとわたしの真後ろに立って肩越しに鍋を覗いてくること。
(ま、真人さんのバカ……!)
ついつい文句を言いそうになった。