11年目のバレンタイン〜恋を諦める最後の告白
「ちょっと、味見させて?」
そんな事を言われたら……。
しかも、背中でぬくもりを感じながら耳もとで囁くように言うものだから、心臓が爆発しそうだ。
(落ち着いて……ただ、木匙にカレーを入れて差し出せばいいだけ……)
クツクツと煮立つカレーの表面を木のスプーンですくい、息を吹きかけて冷ます。
「ど、どうぞ……」
「あ」
(えーっ?わたしが真人さんの口に入れるの?)
大きな口を開いて待ってる三十路男……傍目から見れば、かなりシュールすぎる。
でも、わたしの方は心臓バクバクで。震える手をなんとか動かして彼の口に収めた。
「……ん、うまい」
「……それは、よかったです」
木のスプーンをシンクに突っ込んだ真人さんは、揚げておいたカツをオーブンレンジに入れて温める。
「美幸ちゃんも、ご飯まだだよね?」
「あ、はい…」
「じゃあ、一緒に食べよう」
真人さんは炊飯器からカレー皿にご飯をよそうと、カツをのせてカレーをかける。それだけでなく、冷蔵庫にあったサラダをアレンジして、ミモザサラダに仕上げてくれた。