11年目のバレンタイン〜恋を諦める最後の告白
こんな、甘えたような真人さんは他に見たことがない。たぶん、幼なじみゆえの気安さなんだろう。
「いただきます」
2人で手を合わせて食前の挨拶。
あと何回、これができるんだろう……?
そう思うと悲しくなるけれど、暗い顔は見せたくなくてまぶたを閉じる。
大丈夫、大丈夫。わたしは笑える。
結婚を控えているひとに、暗い気持ちを見せない。見せちゃいけない。
「うん、うまい!美幸ちゃんのカレーはやっぱり美味いなあ。世界一だよ」
「そんなお世辞言ったって、何も出ませんからね?」
「バレたか。カツがまだあるようだから、おかわりを狙ってたんだ」
「ふふ、仕方ないですね。じゃあレトルトご飯でもレンチンしましょうか」
余ったカツは明日カツ丼にでもする予定だったけれど、真人さんが食べたいなら仕方ない…と、結局甘いわたし。
「あ、でも。食べすぎて大丈夫ですか?健康診断でコレステロール値が少し上がってましたよね?」
「……それを言われるとなあ。三十路の悲しいところ……もうおっさんだ……」
自虐的に言うものだから、ちょっと吹き出した。
「もう、中年ですね」
「時の流れが悲しく恨めしい…」