11年目のバレンタイン〜恋を諦める最後の告白
「……いいもん!美味しいんだから」
でも、と開き直ってべぇ、と舌を出した。どうせ赤ちゃんの頃から知られてるし、それに……。
(どうせ、フラれるんだもの)
「真人さんこそ、なにか良いことがあったんでしょう?美々屋の焼きプリンなんて買ってきちゃって…」
わたしがそう指摘すれば、真人さんがギクッとした顔をして落ち着かなくなる。手元には、スマホ。
食事時にはマナーが悪いから、と今までは持ち込まなかったのに……。
突然、真人さんのスマホが震えだした。マナーモードにしてるんだろう。着信画面を見た彼は、「ごめんね」とスマホを手にダイニングから出ていく。
着信の画面が一瞬、見えてしまった。
【美穂】ーーと、どう考えても女性の名前だった。
今まで、真人さんは付き合った人はいた。
でも、ここまであからさまに存在を匂わせた人はいない。
つまりそれは、わたしに希望が無いのだと宣告してきたに等しい。
突然、プリンの味がしなくなった気がした。
おいしかったはずなのに……今は、砂を噛むように味気ない。
それでも、無理してお腹に詰め込んだ。
せっかく買ってきてくれたのだし、残して変な勘繰りはされたくなかった。