11年目のバレンタイン〜恋を諦める最後の告白
食事なんて、喉を通らなかった。
味も何もかもわからずに、ほとんど食べられないわたしを心配した真人さんは、デザートを先に出してくれた。
綺麗に彩られた、ザッハトルテ。
チョコレートケーキの王様と呼ばれるそれだけは、意地でも食べきった。
なにか言おうと思うのに、喉が詰まったように言葉が出ない。場慣れした大人の女性なら、気を利かせた会話で楽しませるだろうに。
本当に、自分の何もかもが嫌になる。
タクシーに乗り込んだ後も、行き先なんて自分で決められずにすべて任せっぱなし。いくら初めてでも、自分なりに調べて予約すべきだった…。
「美幸ちゃん」
「………」
「本当に、いいのかい?今なら引き返せるよ」
真人さんが最後の確認をしてくる。
本当は……怖い。今すぐ逃げ帰りたいくらいだ。
でも、わたしは決めたんだ。最初で最後なんだから、彼に自分の初めてを捧げるんだと。
「……はい。いいんです……お願いします、真人さん。それ以上なにも言わないでください」
「……わかった」
そのうちに、タクシーは目的地に到着する。
県内でも屈指の一流ホテルだった。