11年目のバレンタイン〜恋を諦める最後の告白
真人さんがなにか呟いたけど、小さくて聞き取れない。
「えっ?」
「……なんでもない。温かい飲み物でも頼むか。体が冷えただろう?」
真人さんがルームサービスを注文し、程なくしてワゴンで運ばれてきた。
(わぁ……すごい!)
ワゴンには薔薇の花が活けられた花瓶とともに、かわいいクッキーとミルクティーが用意され、わたしたちが座るソファのテーブルに提供された。
「……おいしい」
温かい飲み物を口にすると、体が冷えていたことに気づく。ゆっくり沁み通るあたたかさに、体と心の緊張が解れていく。
優しい甘さは、ほっと息をつかせてくれる。
いまさらながらおなかが空いてると気づいて、クッキーを摘んだ。サクサクと軽い口当たりと、ホロホロ溶ける香ばしさ。数枚口にしただけで十分満足できた。
「……ありがとう、真人さん」
「……別に」
そっけない態度に胸が痛んだけど、これはわたしのわがままから作られた時間。こうして楽しむなんて厚かましいのかもしれない……。
ルームサービスの方が退室して行ったのを確認してから、わたしは急いで立ち上がった。
「シャワー……浴びてきます」