11年目のバレンタイン〜恋を諦める最後の告白
メイクを落としてからバスルームに足を踏み入れてシャワーコックをひねる。ちょうどいいお湯が流れて全身を洗い流すうちに、本当にいいのか?という思いも頭をもたげてきた。
美穂さんがこれを知ったら、どれだけ傷つくか……。
(ううん、いいの!たった一度きりなんだから……わたしにはこれしかない。1時間……1時間だけ…なんだから)
もしかしなくても、これは過ちかもしれない。
違う女性と結婚が決まったひとと…。
でも、それでも……わたしは、真人さんに抱かれたい。
これで、諦めるから。
これで、さよならだから。
流れる涙を誤魔化したくて、顔を上向かせてシャワーの流れを受ける。
それでも堪えきれず、小さな声で泣いた。
シャワーのお湯を一番多く流しながら。
そして、たぶん。真人さんは優しかった。
わたしが耐えている間、ずっと抱きしめてくれた。
まるで、壊れ物を扱うように……優しく繊細に扱ってくれて。疲れて眠りに落ちるまえ、なにか言っていたけれども。
夜が明けるまえ。
目が覚めたわたしは、そのまま服を着て部屋を出た。
“さよなら”
小さく、小さく。聞こえないくらいの声で。
もう二度と、あなたに会わないからーー。