11年目のバレンタイン〜恋を諦める最後の告白
「……もう、行くんだ」
「うん、もう決めたから…」
3月。
卒業が決まったわたしは、卒業式を待たずに勤務地へ引っ越しを決めた。
自分のとある事情に気づいたから。
とはいえ、社員寮があって一通りのものは揃ってるから、持っていくものは着替えや日用品程度で事足りる。
お父さんが運転する車に乗って、麗奈と別れを惜しんだ。
バレンタインデー以来、真人さんには会ってない。
わたしが部屋に引きこもっていたからだけど、お父さんやお母さんには会いたくないと伝えて、もしも訪問してきてもお断りしてもらった。
もちろん、LINEもメールも電話もブロックした。
いまさら、話すことなんて無い。
麗奈から、真人さんが“指輪ができたからようやくプロポーズできるよ”と嬉しそうに話してた、と聞いたんだから。
美穂さんと幸せになる人が、たった一度きりお情けで抱いた幼なじみに関わる理由もない。
以前より頻繁に訪ねてきたらしいし、雨の中待っていたみたいだけど。わたしは心を鬼にして拒絶した。
そのせいで真人さんは風邪をひいて寝ついてるみたいだけど…。きっと、連絡すれば美穂さんが看病しに来るだろうわたしが何かをする必要なんてないんだ…。
「じゃあ、ちゃんとご飯食べなよ!なんかあったらすぐLINEしなよ!!」
動き出す車に合わせて小走りの麗奈が、涙ながらに伝えてきた。
「うん、ありがとう……麗奈……それから」
懐かしい隣の家を見上げながら、心のなかでさよならをした。
(本当に、さよなら……真人さん……幸せにね)