11年目のバレンタイン〜恋を諦める最後の告白
「でも、美幸さんも偉いですよ。20歳そこそこで雅人くんを産んで、一人で頑張って育てているんですから」
「……いえ、ちっとも。雅人がいてくれてくれるから頑張れるんです」
愛しいわが子を抱き上げると、きゃー!と喜んで両手を上げる。最近、万歳が気に入ってるらしい。
笑った顔が、そっくりだ。忘れたくても忘れられないあの人に。
「あ、そうそう」
綾子先生は残ってる子の相手をしながら、思い出したように顔を上げて言う。
「今日、昼に黒い車に乗った三十代くらいの男性がずっと園内を見ていた、としのぶ先生が言ってましたよ。他の保護者の皆さんにもお伝えしましたが、美幸さんもくれぐれも注意してくださいね」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
ぎゅっと雅人を抱きしめる。
不審者か……
でも、なにがあっても雅人だけは絶対守ってあげたい。
「お母ちゃん、頑張るからね、雅人」
「あい?」
「ううん、なんでもない。夜ご飯何がいい?」
「はんばーぐ!ちーず入れて!」
「ハンバーグは一昨日食べたでしょ」
「じゃ。うどーん!」
「冷凍があったかな…うん、そうしよっか」
自転車を漕ぎながらこうして会話できるだけで楽しいし、幸せだった。