11年目のバレンタイン〜恋を諦める最後の告白
(黒い車…!)
アパートの前まで自転車を漕いできたら、綾子先生が言ってた黒い車が敷地の前に止まってる。
たまたま止まったのかもしれないけど、万一不審者がいたら…。
「あ、ちょっと買い忘れたな!雅人、スーパーに戻ろう」
「あい!」
引き返そうと自転車をUターンさせた時、だった。
「……美幸?」
(え……この声……まさか……)
忘れるはずがない。忘れられない……最愛の人の声。
でも、とわたしはペダルに力を入れて漕ごうとした。
(いまさら……結婚して幸せな人にわたしは関係ない!)
「待って!!」
「!」
まさか、目の前に飛び出して来るなんて思わなくて、慌ててブレーキを掛けた。ギリギリで停まれてほっとしたけど……。
「あ、危ないじゃないですか!なにを考えて……」
それ以上、言えなかった。
突然、抱きしめられたから。
息苦しくなるくらいに、強く強くーー彼は、真人さんはわたしを抱きしめる。