11年目のバレンタイン〜恋を諦める最後の告白
バスで麗奈とともに帰宅し、近くのスーパーに寄って買い物をした後に鈴宮家に立ち寄る。キッチンでエプロンを身につけ、エコバッグから材料を取り出した。
高校生2年ごろから、主任になった真人さんが忙しくなり、わたしが鈴宮家の食事の世話をするようになった。
「今日は、かつカレー!ソースたっぷりかけるぜ!!」
「麗奈!遊んでないで、お肉叩いてよ」
「ほーい!」
気を抜くと、すぐ麗奈はスマホをいじろうとする。バイト仲間の他に、カレシが4人男友達が何十人もいるらしい。身につけるブランド品はみんな彼らからのプレゼントだ。付き合った経験がないわたしから見たら、すごい世界だ。
「このっ!この!高槻教授のバカヤロー!」
なんか、豚肉を高槻教授に見立てて麗奈が憂さ晴らしをしてる。ミートハンマーでこれでもか、と叩いてるなら、よほどストレスが溜まってたんだろうな。
たしかに、高槻教授は多少小肥りだけどね…。
「麗奈、そこそこにしときなよ」
「ふーんだ、いいよね。もう卒業が本決まりの人は〜」
恨み節を言われてもね、と微苦笑する。でも、次の麗奈の言葉で玉ねぎを刻む手が止まった。
「でも、さ……本当にいいの、美幸(みゆき)。兄いに本当に就職する場所言わなくて……」