11年目のバレンタイン〜恋を諦める最後の告白
包丁を持つ手が震える。麗奈がまさかその話題を出すとは思わなくて、動揺してしまってた。
でも、わたしの答えはひとつ。
「……いいよ、真人さんには言わなくて」
「でもさ、美幸。兄いのことマジで諦めちゃうの?毎年、バレンタインに告白してきたじゃん!せっかく短大だって卒業するのに…アタシから見れば、真人兄いの脈はあると思うよ。そりゃあ、結婚決まったとか言われたけど…秋にって話だし。まだ今なら間に合うんじゃないの!?奪っちゃいなよ!」
麗奈から必死に説得されて、少しでも気持ちが揺さぶられるのは否定できない。
“奪っちゃいなよ”ーー。
そう出来たら、と何度思っただろう。
背が高く眉目秀麗。昔からかっこ良かった真人さんは、高校生から大人びていてモテてた。文武両道を絵に描いたような優秀さで、成績もスポーツもトップクラス。それでも驕り高ぶることなく誰にも優しい。
大学も地元では屈指の一流大学で、就職先もオリンピックなんかの会場建設を請け負う超大手ゼネコン。
独身女性からの熱視線がすごいのは当たり前で、事実彼とともに見る女性はモデルや女優さん並みにきれいでオシャレな人が多かった。