【電子書籍化】婚約破棄したい影の令嬢は
もがいても肺に水が入り、さらに苦しくなる。
もうダメだと思った時だった。

「‥‥危ないッ!」

そんな声が聞こえてから、フィルズは誰かに手を引かれる感覚に瞼を閉じた。
ゴホゴホと咳き込んでいると目の前には同じく濡れた少女がいた。

一目で同じ人間ではない事が分かった。
彼女は言葉では言い表せないほどに美しかったのだ。

「‥っ、どうしよう」

フィルズと目が合うと焦ったように去っていこうとする少女を引き留めた。
少女は泣きそうな顔をしていた。
けれどフィルズはどうしても伝えたかった。

「ごめんね‥ありがとう」

直感だった。
フィルズをずっと助けてくれたのは彼女に違いない。

どこからかフィルズを呼ぶ声がした。
スルリとすり抜けるようにして少女は一瞬で居なくなってしまった。

(名前も聞けなかった‥)

少女の姿が目に焼き付いて離れなかった。
フィルズの心を一瞬で奪って、消えてしまった。
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