初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
私達の見送りを断られて、おひとりで殿下が温室から出ていかれました。
幼い頃からバイロン侯爵邸に遊びにいらっしゃっていたので、いつも案内なしで入ってこられて
帰られるのだそうです。


「当主と嫡男しか知らない皇宮へ至る隠し通路も、幼い頃におひとりで皇宮から辿って来られまして、皆を驚かせました」

『今日はちゃんと馬車で帰られると思いますが』と困ったようにエドガー様は仰いましたが、
その表情は柔らかいものでした。


「寮まで送らせていただけますか」

エドガー様は左手を胸に当て、軽く頭を下げられました。



侯爵家の馬車の中で、まずエドガー様が口にされたのはキャルのことでした。


「あれを悪く思わないでいただけませんか?」

「キャロライン様のことですね」

「妹が貴女に近付いたのは、殿下や私にそう命じられたからではありません
 妹は貴女が留学されてすぐに、心配だと話していました」

「私が心配?」

「周囲と一線を引いているようだと
 貴女と友人になりたいから、親しくなる機会を伺っていると言っていました」

「……」


こちらから一線を引いているつもりは、ございませんでした。
キャルだけではなく、他の方からもそう見られていたのだとしたら、私に友人が出来なかったのもうなづけました。
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