初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
まさか、ひと夏をふたりで過ごされていたのに
結ばれていなかったなんて。
私は驚いてしまって、しばらく呆然としており
ました。


「私、聞いたのです……
 カフェでおふたりはお互いに愛を囁きあって
おられました……」

『そうなんだ』と呟き、殿下は片方の眉を上げられました。
その赤い瞳は面白いものでも見つけたと、いう
ように輝いていました。


「それは、ふたりが王都に行った日の事かな?
 当日の朝に急に王都へ出ることになり、
 こちらはそんな予定がなかったのでバタバタ
した日なんだ
 ふたりは買い物をして、予約もせずにカフェに入ったものだから、会話を拾うことは出来なかった
 君が同じカフェにいて、ふたりの不貞の現場を押さえたとは知らなかった」

「現場を押さえたのではなく、後ろのテーブルにおふたりがいて会話が聞こえてしまったのです」

「これぞ運命ってやつだね!
 後ろのテーブルにいたなんてね!」

「殿下、笑いすぎです」

こらえきれないように大きな声で殿下が笑い出されたので、エドガー様がたしなめられました。


「仕切られた奥の席にいらっしゃったので、
おふたりは私に気付いておられませんでした
 ノーマン様が私との婚約を破談にすると
クリスティン様に誓われたので、気を利かせた
従弟が連れ出してくれたのです」
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