初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
廊下を足早に歩きながら知っている顔を探した。
出来るなら、父親か王子がいい。
彼らなら無礼な代理講師をどうにかしてくれる。

だが彼らは見つからない。
どうして自分が会いたい時に二人はいないのか。
いなくてもいい時に会いに来るくせに。


そんな時に声を掛けられたのだった。


『廊下をそんな勢いで歩いたら危ないよ』

この私に、自分から声をかけて来るなんて。
無礼者の顔を見てやろうと振り返ると、
そこに会ったことのない美しいひとがいた。


本物の、少女が夢見た王子様がそこにいた。



少女はお茶の席で、第1王子からそのひとを紹介された。
隣国の第2皇子だという。
金色の長い髪と翠の瞳を持った美しい皇子様。
皇子は少女と目が合うと微笑んだ。


『先程廊下で会いましたね』

少女はその声にうっとりした。
もっとそのお声を聞かせて。
もっとお話をして。
もっと私を見て。

少女が誰かに対して、その様な感情を持ったのは初めてだった。


それからも何度か王宮で皇子の姿は見かけたが、簡単には近寄る事など出来なかった。

常に皇子の側に誰かが付いていて彼は一人ではなかったし、少女が自分を見ている事に気付いてもいないようだった。

だが一度だけ、少女の視線に気付いた皇子は笑顔で手を振ってくれた。


皇子が隣国へ帰ってからも。

少女はその笑顔を何度も何度も思い出した。
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