初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
少女は彼女達より身分も高く容姿も美しいが、
彼とは年齢が6歳も離れていて、同じように
側に侍ることは出来なかった。


何より少女には王太子という婚約者がいる。

久しぶりに会えたのに近付けなくて悲しんでいたら、皇弟殿下の方からお声を掛けられた。
嬉しさにくらくらして、どう挨拶を返したのかも覚えていなかった。
何か話さなくては彼は行ってしまう、そう思って震える声で尋ねた。

髪をお切りになったのは何故ですか?と。


隣国の男性は成年を迎えると、伸ばしていた髪を短くすることを本当は知っていた。
隣国の歴史や伝統を学んでいた。
けれど咄嗟に出た言葉はそんな話題だった事に、自分に腹が立った。


自分がつまらない人間だと初めて思ったが、その感情を初めて与えてくれたのが皇弟殿下だと思うと、嬉しくもあった。


『大人になったからです』

相変わらず美しいそのひとは短くした前髪を摘まんで彼女に微笑んだ。

皇弟殿下は離れて行ったが、少女は彼が残していった声と瞳と微笑みに酔っていた。

いつの間にか婚約者が隣にいたことに気付かない程に。
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