初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
黙ってしまった俺を男が凝視していた。
視線が痛くて、慌てて酒をあおった。


「俺、そろそろ……」

帰らなくてはと、立ち上がりかけた俺の腕を掴んで男が座らせようとした。

強く力を入れてるように見えないのに、しっかり掴まれて振り払えない。
普通の街の男に見えてるが、体を鍛えているような気がした。


「もうちょっとだけ付き合ってくれよー」


男から
『宿を取ったけど、部屋が古くて狭いので早く
戻りたくないのだ』と、説明された。
奢って貰っているのだから、もう少しだけ付き
合ってやるかと思った。


「婚約してた女と別れた理由を、聞かせて貰う
までは帰さねぇよ」


男の灰色の瞳が光った。
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