初恋の沼に沈んだ元婚約者が私に会う為に浮上してきました
男は裏道に入り、停まっていた馬車に俺を押し込んだ。
違う、そうじゃない。

酒に酔わせて薬を飲ませた俺を、どこかへ連れて行く為にここに馬車を待たせていたのだ。
御者は男の仲間だ。

歩いてた俺に声をかけたんじゃなくて、俺が来るのを待ち伏せして、声をかけた。


「これで、少しはましになるだろう」

そう言って男は俺の鼻をつまんで無理矢理に口を開けさせた。
黒い薬みたいなのを放り込んで、馬車の中に
あった水筒の水を流し込んだ。


男の言葉からは訛りが消えていた。
俺の向かいに座る姿勢や目線で。
一連の動作が流れるように綺麗で。
酒場にいた時と別人の雰囲気がした。


男は荒い仕事に慣れている。
だが、はした金で雇われて汚れた仕事をしているように見えない。

(こいつは本物だ)


職業として、淡々と人を痛めつける事が出来る
やつ。
必要だったら、躊躇なく命を奪うことが出来る
やつ。

あの街のオーナーなんかが雇える男じゃない。 


公爵か?
3年経って大丈夫だと、思っていたのに。
思い当たる限り、このクラスの男を雇えるのは
ランカスター公爵しかいない。
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